痔核(いぼ痔)
痔核(いぼ痔)
通常、便が漏れないように肛門は閉じていますが、それには括約筋(かつやくきん)とともに、内側でクッションとしての役割を担う静脈叢(じょうみゃくそう)という血管のかたまりが関わっています。痔核とは、排便時の強いいきみなど、日常生活の中で長期間肛門に負担をかけるうちに肛門付近の血行が悪くなり、静脈叢がうっ血してこぶ状に拡張したものをいいます。形状がいぼに似ているため「いぼ痔」とも呼ばれています。痔核はいくつかある痔のタイプの中でもっとも多く、一般に「痔」というとこの痔核を指します。
便秘で長時間いきむ習慣がある方や下痢が多い方、重い物を持つ力仕事、長時間の座り仕事や立ち仕事を続けている方などに痔核は起こりやすくなります。これらの習慣や動作はいずれも肛門に負担がかかる頻度が高く、肛門クッション(静脈叢)がうっ血する原因となります。女性の場合、妊娠中は体に様々な変化が起こるため、妊娠や出産を機に痔核を発症したり、症状が悪化したりすることが少なくありません。冷え性の方も肛門の血行が悪くなるため痔核が悪化しやすくなります。また、アルコールや唐辛子・胡椒などの刺激物の摂り過ぎは、出血や腫れをひどくさせます。
肛門の上側に発生した痔核を内痔核といいます。上側の粘膜には痛覚がないため発症初期に痛みはなく、排便時の出血のみがみられます。進行して痔核が大きくなると、排便時に痔核が肛門外に脱出するようになります。初めのうちは指で押し込めば戻りますが、さらに大きくなると脱出したままむき出しの状態になって痛みや残便感を伴うようになります。
内痔核は、初期の段階では痛みがなく、認識しないまま進行してしまう場合もあります。
肛門の下側(皮膚部分)に発生した痔核を外痔核といいます。よくみられる外痔核は、肛門側の皮膚に痛覚があるため痛みを伴うことが多いものの、視認できる場所に発生し、自然に治癒することもあります。血栓性外痔核は、急に重いものを持ったり、力んだりしたときに発生しやすく、血まめ(血栓)ができ腫れ、ときに皮膚が破れて出血することがあります。痛みがひどい場合、血栓を摘出することもありますが、多くの場合は軟膏で改善します。
単純な皮膚のたるみ(皮垂やスキンタグなどと呼ばれます)も外痔核に分類されますが、基本的に手術は必要なく、様子をみていただいて大丈夫です。ただし、皮膚のたるみが大きくなり便の拭き取りが大変な場合や、かゆみなどが出るようなら切除を考えます。
痛み・出血・腫れ・分泌物・かゆみ・違和感などの有無、排便や生活習慣などについてお話をうかがいます。
直接肛門部分を観察したり(視診)、直接触れて状態を調べたり(触診)、デジタル肛門鏡という専門的な器具で肛門の内部を観察します。
実際に手術が必要な割合は多くなく、放置せず早めに治療を開始することで改善することが多いです。保存的治療では、痔を悪化させないように生活に気をつけながら、症状を改善する薬物療法を行います。痛み・腫れ・出血などの症状には、内服薬・注入軟膏を病態に応じて用います。痔の症状を繰り返す場合は、生活習慣や食生活、排便習慣などを改善していく必要があります。
内痔核を切らずに患部に直接注射をして治療する方法です。
注射の作用によりすみやかに止血と痔核の縮小効果が得られます。さらに時間とともに痔核が硬く平らになり脱出が消失します。
注射は痛みを生じない内痔核のみに行うため、術後の痛みや出血は極めて少なく、日帰り手術で通常生活への早期復帰が期待できます(外痔核に対しては痛みが強くなるため使えません)。
適応外の痔に使用した場合や、正しく注射をしなかった場合は合併症をきたす可能性があります。また、四段階注射法という熟練した注射手技が必要となります。この手技は内痔核治療法研究会が指定する講習会を修了した医師のみが実施できます。
以前からある一般的な痔核の根治手術です。内痔核と外痔核のどちらにも対応し、根治性が高い手術です。術後の痛みや出血があるといったデメリットもあります。
痔核を外側から切除していき、痔核に血液を送っている血管(痔動脈)の根元を縛り、痔核のみを切除します。
注射と切除術を併用するハイブリッドな治療法です。
外痔核と内痔核両方がある場合、注射で効果が期待できない外痔核を切除し、内痔核はジオン注射で治療します。内痔核が多数ある場合に、大きな内痔核は結紮切除を行い、小さな内痔核は注射で治療することもあります。
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